灰色の街

久々の、念願の撮影。東京をポジ・フィルム
で撮る「DOG RUN」の新作を撮るため、
池袋に向かう。今回からは豊島区を撮る
つもりだ。


前回は縁もゆかりも無い港区を撮ったの
だが、今回はちょっと思い出がある。
初めて見た東京の街が池袋だったのだ。
小学1年の冬休み、池袋に住む親戚の家に
遊びに行ったのである。


釜石から花巻まで汽車に乗って2時間。
乗り換えて特急はつかり(まだ新幹線は
無かったのだ!)にて上野まで6時間位
だった。生まれて初めて寝台特急に乗った
(ん?それは帰りだったっけ?)。


東京の街はやたらゴチャゴチャしていて、
みんな灰色に見えた。
1つ下の従兄弟と迷路みたいな路地を
走り抜けると、大きな高速道路が現れた。


僕らが訪れた少し後、その親戚は板橋の
方に家を建てて引っ越したので、池袋の
記憶はその時だけだ。
それでも東京というと、僕は決まって
あの灰色の景色を思い出す。


‥‥なんて事を最近池袋を訪れた時に
思い出し、撮りたくなったのだ。
本当は曇りの日に撮りたかったのだが、
あいにく(こんな日に限って)快晴。
でもまあ、そんな余計な事をしない方が
良いだろうな、きっと。


かすかな記憶をもとに、池袋駅の北口から
歩き出す。この線路、見覚えがある。
ホテルや風俗店の並ぶ通りを抜けると
商店街があって、ふと右を見ると路地が。
入って行くと昔従兄弟達が暮らしていた
家に似た、古いアパートがまだ残っていた。


「多分この辺だな」と思った。
何の確証も無いけど。40年以上前の記憶
なんていい加減なものだ。
とりあえず撮っておく。


迷路みたいな路地を行ったり来たりして
いるうちに、ふと大きい道路に出る。
川越街道。ああ、この場所だ!
かすかな記憶が、かすかなりに次々甦る。
目眩の様な、ぐらぐらする感覚が襲う。
40年以上前、僕はここにいたのだろう、
多分。


かと言って、良い写真が撮れる訳じゃないん
だよなー(ははは)。
それからもあちこち歩いたが結果はどうだか。
このシリーズはいつもそうだ。
撮ってる間はいつも自信が無い。
でも、めちゃくちゃ面白い。
とりあえず、ようやく再開しました。