ひとつだけ

昨日は宮古から盛岡に戻り、そのまま友達と飲みに行って、
夜遅く帰ってきた。今朝はいつもの二日酔いだ。
だが頭の中には、昨日見た景色がずっと貼り付いている。


海沿いの町は、何もかも全て消えてしまっていた。
まるで最初から存在しなかったのように、何もかも全て根底から
もぎとられてしまっていた。それらの町を訪れた事の無い人達が見たら、
最初からそういう町なのだろうと勘違いしてしまうかも知れない。
それくらい徹底的に剥ぎ取られてしまっていた。
でもそこには確かに、とびきり素敵な町が存在していたのだ。


絶望的な気持ちになり涙が溢れそうになったが、僕にその資格は無い。
ここで暮らし、復興するべく動き出している人達がたくさんいる訳で、
町を離れた僕が、どうのこうの語る事はできない。


ただひとつだけ、僕にもできた事がある。
僕は今まで、それらの町を片っ端から撮影していた。
何の変哲も無い、けれどもう二度と見る事のできない景色をたくさん
写真に残していた事は、僕にとって唯一の救いであった。
そして、そう思ってくれる人は他にもいる筈だ。


なのでこれから僕ができる事もただ1つ。
「今、目の前にある状況を記録する」、それだけだ。
でも僕はそれを、全力でやり続けようと思う。


歯を食いしばって、消えてしまった沿岸の町を撮った。
発表するかどうかは分からないけれど、とりあえず僕は「今日」を
撮り続けようと思うのだ。