バスに乗って

いつものようにバイクに荷物を積んで外に出たら、
ちょうど出口の所に昔懐かしい型のバスが停まっていた。
いすゞ製の丸っこい、白地に赤ラインのバス。
思わず「うわーっ」と声が出る。


僕の父はバスの整備士だったので、子供の頃から何度か近所の
営業所に遊びに行っていた。
運転手さん達がみな顔見知りだったためか、4歳の頃から一人で
普通の路線バスに乗って保育園に通っていた。
すなわち乗車歴38年という訳で、バスへの思い入れは人一倍あると思う。
だから余計に懐かしかった。やっぱかわいい形だなあ。


近くで映画かなんかの撮影をしてたので、多分それに使うのだろう。
こんなきれいな車が、よくぞ残っていたものだ。何だか嬉しくなった。


それにしても、と思う。今思うとこれが始まりだったのだ。
4歳から路線バスで通園する子供なんて、近所でも僕一人だった。
最初は心細かったが、じきに楽しくなってきた。
その後僕は一人で列車を乗り継いで親戚の家に行くようになり、
暇を見つけては無目的にあちこち歩き回るようになり、
やがて遠い土地に一人で旅に出るようになったのだ。


集団の旅行は苦手で一人で歩く事を好み、何の目的も無くフラフラ
する事に喜びを覚えるようになった。30歳を過ぎた頃、それにカメラが
くっ付いた結果、今こうしてフラフラした人生を送る羽目になった訳だ。
僕は最初から、道を踏み外していたのである。


でもまあ、幸せな事だ。
何度もバスを振り返りながら、僕はバイクのギヤを上げた。