課題

昨日、岩泉町にある従兄弟のお寺で
父の四十九日法要を行った。
朝から車で岩泉に向かった訳だが、1ヶ月
以上前からこれが、ずっと心のどこかに
重くのしかかっていた。
法要が、ではもちろんない。
車の運転がね。怖くて。


紫波町から岩泉に行くには山道を越えなけ
ればならない。最大の難所だった早坂峠こそ
10数年前にトンネルが出来てバイパスできる
ようになったのだが、他は昔のままだ。
14年間の赤バイク生活で都市部の運転には
慣れたものの、山道はいまだに苦手だ。


途中、薮川という所を通るが、ここは本州で
一番気温が低い。-20℃を下回るのも珍しく
ない。3月とは言え、路面の凍結が怖い。
子供の頃、冬に岩泉に向かっている途中で
事故に遭った事がある。対向車が滑ってぶつ
かってきたのだ。
そういうトラウマがある道を、この時期に僕の
運転技術で越えるというのはもう、恐怖でしか
ない。しかも日帰りで。無理無理無理。


もっとも、そんな事を言うのは僕くらいである。
以前、横浜の友達夫婦がここをドライブすると
いうので、「あそこはね、ほんっとに怖い道
だよ〜。気をつけてな〜」と教えた事がある。
帰ってきた二人が声を揃えてこう言った。
「どこが」「何が」
大変傷ついた事を覚えている。


バスで行きたかったのだが、父のお骨や位牌、
遺影に加えて、供物やら花やら色々持って行く
ものがあるので、車で行くしかない。
運転が上手かった父はもういない。
やりたくないけどやるしかない。


前の晩から酒を抜いて(はははは)、たっぷり
睡眠を取って臨んだ。緊張していたが、路面の
雪は溶けていたし車も少なかったので、何とか
2時間足らずで到着した。第1関門突破である。


法要を終えて親戚が茶の間に集まった所で
その話題が出た。「そんなに怖くないって〜」
とみんなに笑われる。
反論したいのだが、みんな僕を生まれた頃から
見てきた人達なので言い返せない。
でも怖いものは怖い。


そしたら午後になって雪が降ってきた。
ここ1ヶ月降ってなかったのに、なんで今日?
と焦っていたら、それも全てみんなに見透か
された。再び笑いが。でもさー。


2時にお寺を出る。結構な吹雪。段々積もって
きた。気を紛らわす為に母に話しかけるが、
まともに答えてくれない(怖かったんですね)。
仕方ないのであとは無言でひたすら運転する。


薮川を越えた所で雪は止んだが、その後の
山道が急に怖くなって、ビビりながらゆっくり
走った。それでも何とか、帰りも2時間で到着。
終わった。俺はまた一つ、難関を越えた。
やったー!と喜んだのもつかの間、ふと気付く。
「次は一周忌だよな」


一周忌は来年の1月である。完全な冬。
絶対に雪が積もってます。間違いなく凍結
してます。東北弁で言えばデラッデラ。
怖いよー、やだよーと思ったが、これは父の
与えた課題なのだと思う事にした。
「岩手で暮らすなら、これくらいできるように
なりなさい」
……分かりました。克服するよ。