分岐点

昨夜から激しい雨。笑ってしまった。
「やはり降ったか」
雨男健在である。
人事課に向かう途中で更に激しくなり、
風も強くなった。傘を差していても
靴やズボンがびしょびしょになった。


そこで思い出したのである。
「最初の日もそうだったな」
4年前の4月1日もこんな天気で、
スーツの裾がびしょびしょに
なったっけ。


今日で大学での仕事はおしまい。
人事課で色々説明されるかと思ったら
職員証と保険証を返したらおしまい
だった。入る時は色々あったのに。
赤バイクよりあっさりしている。
ま、その方がありがたい。


10時に教授が来て引継ぎ。
データもサンプルもきっちり整理して
おいたので、あっさり終わった。
餞別代わりにMacBookAirを譲って
くれないかな、と思っていたが
ダメだった(当たり前だ)。


「お世話になりました」と言ったが
「お疲れ様」の一言すら無かった。
今月で定年になって立場が変わるので
忙しいんだよ、だけだった。
ここ最近、そればかり言う。
だからどうした。


最初の年、一度だけ本気で教授に怒鳴り
返した事がある。ある日突然部屋に
入ってきて長々怒鳴られたのだが、
その言葉にあまりに思いやりがなかった
ので爆発した。
父の容体が悪化して、いつどうなるか
分からなかった頃だった。
今でもあれは許せない。


以来「そういう人なんだな」と認識して
いたので、今日も「分からないだろうな」
と思って笑っていた。
それから准教授と助手にも挨拶する。
こっちもまあ、そんなもんだ。
It's a small world、である。


外に出たら雨が収まっていた。
空を見上げた瞬間、「やりきったな」
と思った。やれる事は全てやった。
思い残す事は何も無い。
特にこの3ヶ月、全てを注ぎ込んで
本当に良かった。
もう、何の悔いも無い。
それだけで十分だ。


同じ部屋で実験していた准教授にも
挨拶する。大学時代僕が所属していた
研究室の3年先輩で、大学の中で唯一
共感できる人だった。
職人気質の研究者だ。多勢に流されない
から誤解されているかも知れないけれど、
一番真っ当な人だと思う。
休出するとその先生がいつも居て、
お互い笑ってしまった。


この仕事に就く前に不安だった事がある。
「この仕事がうまく行かなかったら、
楽しかった大学時代の思い出まで失われて
しまうんじゃないか?」と。
でもそんな事は無かった。
学生と職員という立場の違いもあるけど、
何よりここはもう、かつての大学じゃない。
全て変わってしまった。
別の場所だから、思い出が損なわれる事は
無い。寂しいけれど嬉しかった。


お世話になった方々に挨拶して、最後に
同僚にお礼を言う。本当に勉強になった。
ありがたかったな。


4年間、楽しい事なんか一つも無かった。
辛かったし苦しかった。
でも多分、とても大事な分岐点だったと思う。
その試行錯誤を写真にフィードバックできた
ことが、一番嬉しい。


2時に大学を出た。雨が上がったので
車に乗る前に写真を撮る。
これでおしまい。明日から無職だ!