新しい町

18きっぷシリーズの2回目は釜石。
何だい、いつもと同じじゃないかと
言われるかも知れないが、調べてみたら
6年ぶりだった。「ライフワーク」とか
言ってたくせに。


いつもの直行便で9時ちょっと前に着く。
正直行く前は「久しぶりに行ってみっか」
くらいの軽いノリだったが、大渡橋を
渡ったあたりから「これは面白いぞ」と
思い始めた。


町が変わった。建物が増えてそこに生活の
匂いが戻ってきた。人が生きて、暮らして
いるんだなという空気を今までで一番感じた。
ああ、釜石だなと思った。
新しい町だけれど記憶の奥底にある何かを
揺さぶってくる。


ワクワクしながら港に向かっていたら、
「あれ?」と思った。この道、こんな上り坂
だったっけ?
あるビルの前まで来て気が付いた。
盛土をして嵩上げされていたのだ。


元々あった道路はこのビルの1階と同じ高さ
だったが、今は3階の下まで嵩上げされていた。
震災の時、津波が襲ってきた高さだ。
このビルも1、2階が完全に水没したのだ。
これなら津波が来ても街中へ流れる量を
抑えられる。


その横には高さ8m位まで嵩上げされた遊歩道が
新しく作られていた。「グリーンベルト」と
いうものらしい。津波が発生した時に港湾付近の
人達が避難できるように設けられたのだそうだ。
750mもあるらしく、そこを歩いていると
今まで見れなかった高さで街を見下ろす事が
できる。今まで撮れなかった高さから撮影できる
のだ。


今までとは違う見方ができるな、と思った一方で
「でもな」とも思った。嵩上げされた道の下には
かつて町があって、住宅や飲み屋があったのだ。
僕はそれを覚えているし、撮っている。
面白い所だった。
それらが全て流された後に、高く土が盛られて
この場所ができているのだ。
それを忘れる事は無いけれど、感傷的になり過ぎる
のはやめようと思った。


その後港の近くで、津波が届かなかった地域を
見つけた。ここ、撮った事が無かった!
こんな場所、まだあったんだ!
その後も同じような、踏み入った事の無い
場所が続く。20年前から撮っているのに、
なんでこんな面白い場所を知らなかったんだろう?
撮ったのを忘れているだけか?
いや、手前で引き返していたのだ。何やってたんだ。


今まで釜石を撮る時は、子供の頃に見た風景が
いつも脳裏に残っていた。製鉄所がまだ元気だった
頃の、ワクワクする風景。それを取り戻したいと
思って、そこに縛られる事が度々あった。


でも今回の撮影にはそれが無かった。
過去の記憶への過剰な思い入れが無くて、
新しい町にワクワクしている。
でも記憶の奥底には何かが残っていて、
それが僕を揺さぶってくる。
新しい町だけど、僕の故郷だ。
すごく楽しい撮影だった。