無知の無知

高校の頃、同級生に「スティーヴィー・
ワンダーの『パートタイム・ラヴァー』は
ホール&オーツのパクリだ!」と自慢げに
言っている奴がいた。


多分ベース・ラインの事を言ってるんだ
ろうな、と思った。この頃流行ったのだ。
日本で言うとプリンセス・プリンセス
「ダイヤモンド」。「ダッダッダー、
ダッダッタダー」ってやつ。


やれやれ、と思った。
あのパターンは元々1966年にSupremesが
ヒットさせた「You Can't Hurry Love」で
使われたものだ。ジェームス・ジェマーソン
という素晴らしいベーシストが編み出した
ものの一つで、最も有名なものだ。


彼らが所属していたモータウン・レコード
ついては長くなるので割愛するが、数多くの
素晴らしく革新的な音楽をたくさん生み出して
いるので、知らない方が居たらぜひ聴いてみて
ください。高校生の頃、本当に好きでラジオで
モータウン特集があると全て録音して聴いて
いたのだ。


そして、そのモータウンと1962年に弱冠12歳
で契約したのがスティーヴィー・ワンダー
その人なのである。自分のレコード以外にも
曲提供したり演奏もしていたと思う。
いわばオリジナルが作られた、その現場に
居た人なのである。


ではホール&オーツがパクったのかと言うと
それも違う。あのベース・ラインには心が
ウキウキする響きがあるのだが、彼らは
「Maneater」という曲にそれを使って全く
違う効果を生み出していた。そこが面白い。
だからパクリではない。「引用」である。
過去の物を新しい視点から再構築しているのだ。
「パートタイム・ラヴァー」もそう。
80年代のポップスとして再構築しているのだ。


なぜ長々とこんな事を書いたかというと、
SNSとかYahoo!YouTubeのコメント欄で
批評まがいのコメントを書いてくる人って、
大概このレベルなのである。
極めて狭くて薄くて浅い知識を、過剰な
思い込みで都合良く解釈して大上段から
マウントしてくる、というのがすごく多い。
少なくとも僕が好きな物、とことんのめり
込んで見てきたものに関してはそうだ。


YouTubeを観てて「わー、これ凄いなー」と
感動して感想を見たらこの手のコメントばかり
でガッカリする、というのが何度もあった。
例えば80年代の音楽に関する、僕と同年代の
人間のコメント。情報も解釈も明らかに
間違っている上に、それを若者に教えようと
してたりする。たまに反論している人も見かけ
るが、その人も無知だったりする。


でも「どうせ知ったかぶりと思い込み
だからな」と気付いてからは気が楽になった。
こんなのどうでもいいな、ほっとけ、と。
色々な事を、もっと深く理解している人は老若
男女問わずたくさん居る。
「そんな面白い見方もあるのか!」と感激する
ような意見を持つ人も数多くいる。
そういう人にたくさん会った方が楽しい。


ところでさっきの同級生の話だが、
構うのもめんどくさいので放置していたら
向こうから僕の方にその話を語ってきたのだ。
「君、音楽に詳しいらしいけどさあ」と。
教えてやろうか、みたいな感じで。


なので上記の説明をしたのである。
そこでやめとけばいいのに、「二度と俺に
音楽を語るな」とか言ってしまった。
今思うと非常に恥ずかしい。マウントじゃ
ないか。やだやだ。


盛岡に一人でいると、こんな事ばかり
思い出す。やだやだ。