一人部屋

新しい仕事に就いて3日目である。
まだまだ分からない事が多いのだが
一つだけ気が付いた。
「俺、一人ぼっちだ」


化学棟とは別のプロジェクト専用棟に、
2部屋を与えてもらった。一つは「居室」
で、パソコンを置いてデスクワークを
行う場所。もう一つが「実験室」で、
こちらは他のグループと共同なのだが、
連休明けまで誰も来ないらしい。


つまり一人で2部屋使ってる訳で、気楽
と言えば気楽だが、その分一人で全て
やらねばならない。
実験に必要な道具が殆ど無かったので、
今週は準備だけで終わってしまった。


もちろん一人で出来る訳ではないので
研究室に行って助教の先生や学生さん達
に色々教わっているのだが、一日の大半
は一人でウンウン唸っている。
そもそも実験装置を組む事自体30年ぶり
なので、何をやっても自信がない。


でも全く久しぶりという訳でもない。
昔、会社で新製品の試作をやってた頃に
少し似ている。ラボから出てきた製法を
実際のプラントに置き換えて、装置と
ラインを組み立てて、足りない道具や
原料を発注して、試運転して本運転して
結果をチェックして。似ている。


学生時代の記憶より会社員時代の経験の
方が役に立ちそうだ。脈絡の無い人生
だと思っていたが、どこで繋がるか
分からんなあ。とりあえず川崎に
向かって一礼する。


居室に居ると、時々総務の人がやって
来る。ノックして「すみませーん」とか
言って入ってくるので、勘違いしそうに
なる。自分がまるで教授になったかの
ような錯覚を起こすのである。
「ああ、ご苦労さん」とか言いそうに
なる。いけませんね。ただの一人部屋
じゃねえか。


今は新幹線の中にいる。
これから横浜に戻って引越しの準備と
個展の搬出をやるのだ。
せっかく頭が岩手仕様になってきたのに
また切り替えだ。もう何が何やら。
引越しが終わったら体調崩すかもね。
まあ、何とかなりますよ。
何とかします。