ひとりごと

新しい靴を履いてバイトに行った。
夕方、赤バイクの前輪がパンクした。
代車に乗って配達してたら雪が降った。
結構な吹雪で、びしょ濡れで帰ってきたら
会社の廻りはほとんど降っていなかった。
色々あったが、怒りも悲しみもない
極めて平凡な一日であった。


「なんてね」
ひとり言を言った。返事は無い。
一人暮らしの部屋でひとり言を言ったって、
返事なんかある訳は無い。あったら怖い。
野菜と豆腐と納豆と少しばかりの肉で夕食を
済ませ、風呂に入る事にした。


「ま、このー」
風呂に入る支度をしながら物真似を始めた。
もちろんひとり言だ。
「ま、このー。一億二千八百万人の日本国民が、
 三十七万八千平方キロメートルに住んでいる
 訳ですが」
なぜいまどき田中角栄の真似かって?
分かりません。ひとり言だもの。


ひとり言をブツブツ言いながら風呂に入り、
上がってから熱いコーヒーを飲んで、
またひとり言を言った。
元々ひとり言の多い人間であったが、
歳を取るにつれ、ますます増えている気がする。
孤独な老後を送りそうで怖い。


「なんてね」
ああ、また言ってしまった。