床屋にて

床屋に行く。僕が床屋に行く
タイミングとしては、だいぶ髪が
伸びてしまいました、もうどうにも
こうにもならねえわ鬱陶しいなあ、
と思った後で、かつお金が入るまで
我慢してから行く事が多い。


なので毎回床屋さんに言われる。
「もう少し早く来てくださいねー」
うむ、分かるのだがこちらにも色々と
事情があるのだ。


山手に来てからずっと同じ床屋なので、
もう17年か。だが僕は「常連さん」に
なるのが下手なので、いつも割と無口
である。自分の中では最大限に愛想良く
してるつもりなのだが、扱いにくい
だろうなあ。


2ヶ月ぶりなのだが人が結構入れ替わって
いた。専門学校を出たての子が入り、いつも
3年位で入れ替わる。なぜか秋田出身者が
多いので、僕としてはなんか気楽だ。


その中でも「いいなあ」と思ってた子が
いなくなってたのがちょっと残念だった。
よく気が利くし、仕事も丁寧。おまけに
話を合わせるのが上手い。
僕みたいな人間に対しても話し易い空気を
作るのが上手いから、大したもんだなと
思っていた。
話しながら「もしかして」と思ったら、
やはりご両親やお爺さんお婆さん、その他
色んな大人の中で過ごして来た人だった。



前回来た時、都会にだいぶ疲れてるようで、
「休みの日もどこにも出かけたくないん
ですよねー」と言ってたのを思い出す。
話を聞きながら「ああ、この人はいずれ
故郷に帰るだろうな」と思ったのだ。
もう何人も、そういう人を見て来た。
きっと、故郷に帰った方が幸せだろうなと
思った。そんな事は言えなかったけど。


故郷に帰ったのか、他の店舗に移ったのか
分からないけれど、とにかく居なくなった。
いやー、かわいい女性だったんだけどなー
(おいおい)。
代わりにまた新しい人が何人か入って来て、
同じように右往左往している。
この床屋に通い出してからもう何度も見た
光景で、春なんだなあと思った。