人に優しく

朝、バイト先にクレームが入っていた。
昨日、僕が不在通知を入れた家からだった。
ちょっとうるさい家なので細心の注意を払った
つもりだったのだが、「大変ご立腹」なそうだ。


要点は2つ。
「配達前に電話を入れろと言ってた筈だ」
あんたの電話番号知らんがな。
「不在なら裏の勝手口に置いとけと言ったろう」
この地区配って5年半。初めて聞きました。


ああ、気が重いなあと思いつつ一応お詫びに行く。
が、いつも気難しいその家のおばさんが、
済まなそうにこう言った。
「ごめんなさいねー。息子が電話で怒鳴っちゃって。
 仕事帰りで疲れてたみたいでね。カチンと来た
 みたいでさ。言ったのよ、“そんな言い方しちゃ
 ダメじゃない”って」


仕事のうさ晴らしでクレーム入れるんじゃねえよ、
と思いつつ少しホッとする。
「いえいえこちらこそ申し訳ありませんでした」と
言ったら、おばさんがこんな事を言い始めた。


「あの子もね、40過ぎて独り者だからダメなのよ」
「は?」
「奥さんとかさ、子供が居ればもう少し人に対して
 寛容になれると思うのよね」
「はあ」
「会社だと偉くなったら誰も文句言わないじゃない?
 余計人の気持ちが分からないのよね」
「はあ」
「やっぱダメよ。家族を持たなくちゃ」
「はあ」
「あなたも家族が居るから分かるでしょ?」
「はあ?」


なんだか話がおかしくなってきたぞ。
僕も適当に話を合わせればいいのに、
ついつい正直に答えてしまった。
「いやあの、僕も40過ぎて一人でして」
「あらまあ」
「ですからその、耳が痛いというか何というか。
 あは、あは、あはははは」


....とりあえず大事にならなくて
良かったけど、これなら怒られた方がマシ
だったかも。
家族かあ。