桜を観る

母と買い物に出た帰りに、城山公園と
いう所で花見をしてきた。
父の写真を持って桜を見に行きたいなと
思っていたら、母も同じ事を考えていた。
では、となったのである。


父が入院して残り時間が少ないと言われた
時に、母と「せめて桜が咲く頃までは
元気でいて欲しいな」と話していた。
花の好きな父に桜を見せたかったし、
穏やかな気候の中で見送りたかった。
今年の冬はとても厳しかったので、余計に
そう思ったのである。


でも現実は甘くなくて、一番寒くて
雪が多い日に見送る事になってしまった。
せめて、と思い母と僕は、棺と骨壷を包む
袋に桜の刺繍が入ったものを選んだ。


それだけ春を待つ想いは強かったのだが、
いざ春が来てみると何も変わらなかった。
暖かくなり花が咲き始めると、猛烈に悲しく
なったのである。
いま父が亡くなったとしたら、「なんで
こんな素敵な時期に」と思った筈だ。
冬だろうが春だろうが、何歳で亡くなろうが、
家族を失った悲しさや辛さが薄れる事は無い。


城山公園というのはその名の通り城跡で、
室町時代から戦国時代にこの辺を治めていた
斯波氏の城だったらしい。僕は初めて入った。
思ったよりも大きな城跡で、景色も良かったし
かなりの数の桜の木が植えてあった。
ちょうど満開で、それはそれは見事な景色で
あった。


一番上まで登って、ベンチに腰掛ける。
父の写真を膝に乗せて、桜を見た。
少し曇ってはいたが、それが桜を引き立てて
いて、素晴らしい景色だった。
見てくれたかなあ?


1時間くらい居ただろうか。
今日は朝から疲れていて、正直歩くのも
辛かったのだが、帰る頃には身体が軽く
なっていた。僕も桜に助けられた。
良い場所だったな。来年また家族で
来ようと思う。