締め時

休日。撮影済みフィルムを現像に出す
事にした。だいぶ量が溜まったので、
ひとまず撮影は中断することにした。


それともう一つの理由が。
先週、バイト中の事。夕方、憮然と
しながら配達していたのである。


「もうすぐ自分の仕事は終わるけど、
また他人の手伝いに行かなきゃならん。
朝から結構色々やっておいたのに、
それでもまだ遅くまでやらなきゃならん
のか。つまらんなあ」
そんな事を考えながら階段を上り、配達
して振り返った時、ハッとしたのだ。


目の前には根岸の製油所と海が。
昼間降った雨の影響で景色は霞み、
煙突からはいつもより大きな煙が、
隣の冷水塔からは湯気が。そしてそこに
強い夕陽が差していた。


「うわぁ」と思った。毎日見ている景色
だけれど、この状況はちょっと見たこと
が無い。悔しいな、撮りたかったな、と
思いながら階段を降りようとしたところ
でふと思った。
「何言ってんだお前。写真家だろ」


「写真撮ってなんぼの人間が『あー残念
だなー』って何だよ。撮れよ」
「えー、でも仕事中だし。誰かが見て
たら疑われるしー」
「ふざけんな。お前の仕事は何だ?
一番大事な事は何だ?撮れ!」


頭の中で数秒間にそのようなやり取りが
行われた結果、僕は持っていた荷物を
バイクのケースに戻した。
「俺は、写真を、撮るっ!」


配達を中断し、バイクで部屋に戻り、
カメラを掴んで元の場所に向かった。
遅れたら日が落ちてしまう。
もう、撮れない。急げ。


何とか数枚撮影出来たが、だからと
言ってこれが傑作になる訳ではない。
何度も経験してるが、「あ、そんなもん
すか」となる事が多い。
でも撮って良かった。諦めないで本当に
良かった。


その出来事のおかげで「一段落ついた
かも」と思ったのである。
もう少し撮影したい気持ちはあるが、
一度ここで確認しようと思ったのだ。


撮影していると必ずこういう事がある。
「あ、ここが締め時だな」と思う瞬間が
どこかで現れる。
今回はだいぶ長く撮影していたのだが、
やっとその時が来た。良かったよかった
……ま、締切が迫ってきたってのも
大きいですけどね…。