帰還

28日の夜、横浜に戻ってきた。
12日間、岩手に帰っていた。
父が体調を崩して入院したのだ。


父が入院するのはこれが初めてでは
なく、ここ25年ほどの間に何度も
何度もあった。
ひとつでも十分なほどの大病を、
幾つも幾つも乗り越えてきた。
今回も熱を出して意識が無くなったの
だが、早い段階で原因が分かってたし、
熱さえ下がれば大丈夫だと、甘く
考えてた。


でもそれは大きな間違いであった。
4日目、医師から言われた検査結果は
僕らにとってあまりに衝撃が大きく、
一瞬全てを諦めそうになった。
が、病室に戻って父の顔を見て思った。
「いや、大丈夫だろ」


これは亡くなる人間の顔じゃない。
家族が諦めてはダメじゃないか。
そう思って母と二人、夜通し看病した。
父が熱にうなされて暴れないように。
つきまとっている悪魔に、諦めて出て
行ってくれと願いながら。


6日目くらいから熱が下がり、意識が
戻り、少しずつ食事が食べられるように
なってきた。それでも先が見えなかった
のだが、11日目の検査結果と医師の判断
を聞いてようやく安堵した。
もう大丈夫。悪い数値は全て正常に戻った。
父が帰ってきた。
あとは再発しないように注意して生活
しながら、体力の回復を図れば大丈夫。
医師や看護師さん達も驚いていた。


翌日には退院後のケアについて助けて
くれる人が決まり、残された母についての
心配も軽減されたので、帰る事にした。
医者や看護師さん達の細かい機転や気遣い
には何度も助けて頂いたし、他にも地域の
ケアマネージャー始め、たくさんの方々に
助けて頂いた。どこからお礼を言って良い
のか分からないくらいだ。
病院から家に戻り、四方八方、父が育てて
いた盆栽達にも頭を下げる。
自分ではどうしようもない事を、誰かが
助けてくれたのだ。
本当にありがとうございました。


6時の新幹線に乗る。寸前まで強めの雨が
降っていたが、盛岡を出る頃には晴れて、
虹が出た。高く高く掛かった虹の下を抜けて
新幹線は東京に向けて走った。


まだまだ気になる事も多いし、自分の中に
色々な影が残ったけれど、とにかく帰って
きた。さあ、先に進もう。