洗い物

実家での僕の仕事は、主に運転手と力仕事
と洗い物である。
昔からやっているのは洗い物だ。
食器洗いと風呂洗い。


長年一人暮らしをしていたので、他にも
出来ることは色々あるのだが、そこは母の
流儀というものがあって、下手に手を出すと
「そうじゃなくて」となり、結局母が全て
やり直す事になる。
そうすると迂闊に手を出せなくなってしまう
のだ。自分の無力さを痛感すると同時に、
母に対して「いいじゃないか。任せろよ」
とも思う。


この「他人に任せられない」、「自分の
やり方をなかなか崩せない」という性格は
僕にも引き継がれており、特に会社勤めを
している時はマイナスになる事が多々あった。
他の人に「あー俺、信用されて無いんだな」
と思わせてしまうのだ。


それでも母みたいに「ごめん、やっちゃった」
と謝るか、とことん一人でやってるなら良い。
「またやったのー。次は任せてね」で済む。
だが僕の場合どこかに鬱積していて、ある日
突然「何で自分ばっかり!」と爆発するから
手に負えない。
周りからすると「えええー⁈」となるのだ。
こういう人間は付き合いにくい。


あれ?なんかまた話がズレた。
洗い物の話だった。
僕は家の外でも洗い物を沢山やっている。
化学実験ではフラスコやらビーカーやら漏斗
やら多くの器具を使うので、洗い物が毎日
たくさんあるのだ。


普通の家庭用洗剤を使って洗うのだが、扱う
物質が有機物なので洗剤で落ちない汚れが
結構ある。
なのでアセトンという有機溶剤を使って
これらを溶かして落とす。アセトンは
有機化学系の実験室では欠かせない。
だが有機溶剤なので、僕みたいに皮膚が
あまり強くない人間にとっては刺激が強い。
あっという間に手が荒れてしまった。


「やれやれ」と思いつつハンドクリームを
塗り込みながらふと気付く。
「手袋しなさいよ」
実験用の薄い手袋を付けて洗えばいいのに、
めんどくさがってやらない。
またしても「フランク・オオザッパ」だ。


そう言えば大学4年の時も、他の人と同じ
実験をしているのに僕だけ酷い薬傷を負って、
両手を包帯でグルグル巻きにしてたっけ。
写真が残っている。
我ながら雑だよな、ほんっとに。


カサカサになった両手に「やれやれやれやれ、
ほんとにもう」と呟きながらクリームを
何度も塗りたくった。あーやだ、この性格。