幻の町

朝8時から撮影開始。
盛岡に出てきて最初に住んだ向中野と
次に住んだ隣の本宮を、そう言えば
一度も撮ってなかったなと思ったので
撮りに行った。


当時田んぼばかりだったこの辺りは、
僕らが引っ越した後西南開発で見る影も
無いくらいに変わった。
大学の時一度見に行って唖然とした記憶
がある。町というのはここまで跡形も
無く変わるものなのか、と。
もう、何の痕跡も無かった。


昔住んでたのは盛岡商高の近くだったな
と思いながら行ったが、道から何から
完全に変わっているので、元の家が
どこに有ったのか全く分からなかった。


時々古い家が残っていたが、その周りが
全て変わっているのでどこにあった家
なのか、全く見当がつかない。
地名だけはバス停の名前で残っていたが
なんかずれている気がする。


とは言え、この姿に変わってからも既に
30年経過してる訳で、町にある種の
貫禄のようなものが出始めている事に
驚いた。そんな経験は初めてだ。


住んでいた場所が跡形も無くなって、
そこに新しい歴史が積み重なっている
のだ。僕は浦島太郎である。
「歳は取るもんだなあ」と馬鹿な感想を
呟く。


本宮は、途中までは昔と同じだった。
バス通りと商店が並んでいた。隠れて
タバコを買いに行った店とかビールを
買った店とかも(何だその記憶)残って
いて、懐かしかった。


しばらく歩いて、「そうそう、この銀行
の向かいを入ると昔の家だったな」と
思ったら、そこに大きなマンションが。


「え……」
マンションの後ろには全く見覚えのない
住宅が並ぶ。その脇には大きな道路が
走り、更に先には昔は影も形も無かった
盛南大橋が。
俺んち、橋か道路の下じゃねえか。


そこも既に、新しい歴史が積み上がって
いて、またしても僕は浦島太郎の心境を
味わった。ほんとに僕はここに暮らして
いたのだろうか?
幻だったんじゃないのか?


それでもしれーっと撮るのである。
これだって、いつまであるか分からない
からね。