エポキシ

家に帰ったら強烈な匂いがした。接着剤のような匂い。
この匂いは覚えているぞ。工場勤めの頃、色んな工事で何度も嗅いだ
事のある匂いだ。


「エポキシかあっ!!」風呂の扉を開けると....やっぱり。
風呂場の床がグレーの樹脂で塗られていた。エポキシ樹脂である。
耐水または耐食の目的で、工場の床などに塗る物質なのだが、
アパートの風呂場修理で、すぐ横で人が生活しているのにこれを使うかあ?
タイル剥がして下地を塗り直して、またタイル貼って終わりじゃねえの?


素人なので施工方法について偉そうな事は言えないのだが、きつい事
は間違いない。窓を開けて換気したが全く変わらない。
何せ発生源が部屋の中にある訳だから、いくら換気したって同じだ。
しばらくすると再び家中に濃厚なエポキシ臭が充満して、気持ち悪く
なるのである。エポキシが乾燥するまで待つしか無いのだが、これは
結構かかるぞ。しかもこの施工方法だと、また明日も別の塗料を塗る
かも知れないしな。ああ、困った。


とりあえず銭湯へ逃げた。熱い湯に浸かって疲れを取り、
「はあ、極楽極楽」と思いつつ帰ろうとしたら、工事の仲介をやって
いる不動産屋から携帯に連絡が。「すぐ来てください」だと。


勘弁してくれよ、風呂の余韻くらいゆっくり味合わせてくれよ。
今日で工事終了とか言っといてあんなもん塗りやがって。あれじゃ
当分終わらねえじゃねえか。銭湯代だって馬鹿にならねえぞ、どうして
くれるんだいと思いながら不動産屋を訪ねたら、「ご迷惑をかけて
申し訳ない」と封筒を差し出してきた。


慌てて押し返す。「いやいやいやいや!そそそ、そーゆーつもりじゃ
ないですから!」(どういうつもりだ?)
だが向こうも「いやいやこの度は」と引かないので、有難く戴いた。
良かった、いちいちキレたり変な催促したりしなくて。ほんとに良かった。
お気遣い、ありがとうございます。


部屋に戻り、再び強烈な匂いに晒されるが、じっと我慢する。
お金もらったから言う訳じゃないけど、まあ、仕方ないよな。