お歳暮

「ん?」と思った。
誰かが部屋の前を通った音がした。
でもドアベルが鳴らない。
「ん?」


実家からお歳暮が届く予定だったので、
あらウチじゃないのかな?と思ったが、
次の瞬間にハッと気がついた。
「部屋番号が間違ってる!」


慌てて外に出たが、宅急便の車に間に
合わなかった。実家に確認したらやはり
宛名の部屋番号を間違えていた。
今年引っ越したからね。


再び外に出る。宅急便の車を見つけて
呼び止めるが、別の地域の担当だった。
一応伝えるが、そう言われても困るよ
なあ。自分も配達してるから分かる。


サービスセンターに電話して詳細を
伝える。「遅れてしまいますが…」
「いえいえ、こちらのミスですから!」


そしたらさっき会った運転手さんが
状況確認の為にわざわざ訪ねて来て
くれた。申し訳ありませんと何度も
頭を下げた。ご迷惑をおかけしました。


この時期、本当に忙しいのだ。
時間指定をこなすだけでもギリギリ
なのに来てくれて、本当に申し訳ない。


さらに担当の運転手さんから電話が。
「いま離れた場所を配達してまして…」
そうですよね。時間はいつでも大丈夫
ですよー。
「あの、出来れば明日に変更して頂ける
とありがたいんですが…」


そうか、と思った。夜までいっぱい
なんだな。そうだよな。
いいです、いいです。明日の一番遅い
時間で。本当に申し訳ありません。


ひと段落したところで実家に電話。
「部屋番号間違うなよな!散々謝った
んだぞ!」と言おうと思ったが、
こっちは送ってもらった立場だからな。


いつもこの時期はお金が無くて、この
お歳暮で食い繋いでいる。ありがたい
贈り物なのだ。文句は言えない。


「あの、今度は間違えないでね。いつも
ありがとね」電話を切る。
……何だろ、この気持ち。釈然としない
なあ。あちこち頭下げて。
挙句、今日のおかずが無くなって。


はあ。撮影でも行くか、と思ったら
曇ってきた。はあ。