湯沸かし器

今日は遅くまで残業だった。
来週からの仕事の準備だったのだが、
間も無く9時になろうとしたその時、
部長が突然すごい剣幕で怒鳴りだした。
「さっさと打刻しなさい!早く!」


タイムカードを早く打刻しろという
のだ。いわゆる「三六協定」で1日の
残業時間が決められているので、その
時間を超える訳にはいかないからだ。
それは分かる。
でも、怒鳴る必要は無い。
怒鳴るのはおかしい。


その時僕は自分の仕事をとっくに
終わらせていて、他の仕事を手伝って
いたのだが、その怒鳴り声を聞いた
瞬間に何かがプツッと切れた。
すぐに打刻して、仕事を放り投げて
振り向きもせずにさっさと帰った。


久々の「瞬間湯沸かし器」である。
上から理不尽な事を言われると瞬時に
プチっとなる。ちょっと前の僕なら
声を荒げて上司に食ってかかった
だろうが、それは無かった。
怒ってすらいなかった。一瞬カチンと
来たのは確かだが、すぐ冷えた。
こいつらに何言っても無駄だ。


静かに消えた訳だが、家に帰ってから
とんでもなく酒と食べる量が増えた。
……怒ってたんじゃねえか。