縦位置

今回の展示では30枚中8枚が縦位置の
写真である。こんなに縦位置の写真が
入るのは初めて、というか縦位置の
写真自体、展示するのは2回目である。
2010年、TAPギャラリーでの
「colored」で展示しただけだ。


縦位置の写真はすごく好きなのだが、
自分で撮るといまいち納得できなかった。
中途半端で、特に35ミリのフォーマット
で撮ると異常に細長く感じられた。
前出の「colored」は4:3のフォーマット
だからそうでもなかったが。


AFTER THE RAIN」を出した後もずっと
実験していて、縦位置しか撮らない撮影、
というのもやっていたのだが、やはり
イマイチだった。僕は縦位置が撮れない
作家なのかな、とまで思った。


転機となったのが昨年。岩手での展示の
為にポスターを作った時の事だ。
デザイナーの原さんが僕の写真を幾つも、
縦にトリミングしてデザインしてくれた
のである。横位置の写真を縦に切り取る
事で、いつもと違う世界が現れた。
でも間違いなく、僕の写真だ。
それを見て「ああ、こう撮ればいいんだ」
と思ったのである。
そこでまずはそのポスターを再現すべく
テスト撮影を始めた。


もう1つの転機は今年の春だった。
歌川広重の「富士三十六景 武蔵小金井
を観て衝撃を受けた。前々から広重の絵は
スナップショットだなあと思っていたの
だが、晩年に全て縦位置で描かれた「富士
三十六景」と「名所江戸百景」を展覧会で
観て、かっこいいなあと思ったのである。
大胆な切り取り方だけれど生き生きして、
叙情的でさえある。何度も観た。


もちろん、これらをそのまま再現できる
訳では無い。横位置を縦位置にトリミング
したポスターも、浮世絵も、誤解を恐れずに
言えば「創作した世界」である。
現実を記録する写真では再現できない構図、
画角である。
それでもこれらの画像は自分の中にはっきり
刻み込まれた。


その後に行った和歌山・三重撮影では4割位
が縦位置での撮影だった。
「あ、いいな」と思った瞬間にカメラを縦に
構えていた事に気付いた時は、自分でも
笑った。
「いやいや。とりあえず横でも撮ろう」
と思った記憶がある。


今回の展示では縦位置の写真をどれだけ多く
展示に残せるか、というのが課題の1つ
だった。同じ場所を縦・横それぞれで
撮って、比べたりもした。
その結果両方を生かしたり、縦だけ生かし
たり色々あった。すごく面白かった。


何より撮影の時、「この面白さはどう撮れば
残せるだろう?」と考えた時に、選択肢が
1つ増えた事が本当に嬉しい。
前にもここで書いたけれど、いつか縦位置の
写真だけで展覧会ができるようになりたい
なあと思っているのである。