相棒

今日も赤バイクのハンドルを握る。
僕は二輪免許を持っていないので、乗るのは原付だ。
大半の人は90ccのバイクに乗るので、今乗っているバイクは
完全に僕専用となっている。


このバイク、過去には色々と問題があり、僕の前任者は
人を轢きそうになってクビになった。その前の人は停止中に
バイクが倒れて高級外車にぶつかり、結構な賠償問題になったらしい。
使った人間の問題かもしれないが確かにちょっと癖のあるバイクで、
ギアは入りにくいし、よくエンストした。それ以外の故障も多かった。
使い始めの頃は、結構イラついた記憶がある。


それでも他のバイクに比べるとパワーがあって乗りやすかったので、
マメに整備に出したり調整したりしていた。乗り方にも気を付けて、
丁寧に乗るように心がけた。
そしたら段々と馴染んで、言う事を聞くようになってきたのである。
いや、「馴染んだ」は違うか。僕がバイクに「認められた」のかも知れない。
「よし、わかった。お前の言う事聞いたる」
そんな感じがする。


こうして僕とこのバイクは、ここ数年ともに働いてきた。
ただの乗り物、道具というより、「相棒」という呼び名がふさわしい。
そういう親近感を、最近は感じるのである。
めんどくさい事が色々と起きる中で、この相棒と過ごす時間は
とても楽しく、頼もしいのだ。


今日も荷物が多くて、やたらと重かった。
相棒の、スピードメーターの辺りをポンポンと叩いて、話しかける。
「今日も重くて悪いな。頼むわ」
「大した事ねえよ。じゃ、行くか」
バイクがそう答えたような気がした。
冬の朝の、妄想である。