犬の日々

配達先に、よく吠える犬がいる。
誰にでも吠える。何度来ても吠える。僕の姿が消えてもずっと吠えている。


飼い主は「いつもいつも吠えて済みません」と謝るけれど、
僕は気にしない。犬は好きだし、近くのマンションに住む小型犬に
比べれば、遥かに愛嬌があってかわいい。あの小型犬と来たら、
気でも狂っているのかと思う位ヒステリックに吠えやがるからなあ。


それでも人の良い飼い主は責任を感じたらしく、犬にある事を教えた。
「吠えたくなったら、これをくわえろ」と。渡したのは黄色いボール。
かなり厳しくしつけたらしい。
それからというもの、犬は僕が配達に来る度に一度ジーッと睨んでは小屋に戻り、
ボールをくわえて戻ってくるようになった。


その顔がまた、「俺はとてもとても吠えたいんだけど、主人に怒られるからさあ」
とでも言いたそうで、無念そうで、何ともおかしい。
時々こらえきれずにボールを落としたりする。一瞬ハッとするが、ジッとこらえて
小屋に帰る。滑稽だけれど、どこか切ない。


今日はボールをどこかに無くしたらしく、自分のリードをくわえていた。
必死に、こらえている。
好きなだけ吠えていいよ、と思う。俺もそうしたいからな。