J.J.Music

すみません。今日もギターの話です。


僕は結構な数、種類のギターを弾いて
きたと思う。腕は全く無いけど、音に
興味があったからだ。
ギターというのは機種によって音が
全く異なるし、同じ機種でも個体差が
かなりある。それが楽しくて休みの度に
楽器屋を回っては試し弾きをしていた。


僕が大好きだったのは吉祥寺にあった
「J.J.Music」という店だ。
オールド・ギターを中心に扱う店だったが
どのギターも綺麗で、きちんと調整されて
いた。そういう店、なかなか無いんですよ。
見た目が汚かったり、パーツがへたって
いるギターを「ヴィンテージ」と言って
売っている店の、いかに多い事か。
この店にはそんなギターは無かった。


マスターが一人でやっていたが、この人が
最高だった。自分の好みが明確にある
けれど確かな技術があって、売っている
ギターはどれも良い音だった。
「俺、このギター嫌いなんだけどさ」と
言いながら、しっかり仕上げてくるのだ。


時には「これ好きじゃないから」と言って
破格の値段で売る事もあった。
でもしっかり手入れしてあって、良い音
なのだ。そういう所が本当に好きだった。


多分リアルタイムで聴いていたであろう
60〜70年代のロックやブルーズが好きな
人で、随分教えてもらった。
「この曲さ、楽譜ではこう書いてるだろ?
でも多分こう押さえてるんだよ」
そう言って弾いてくれた。確かにそうだった。


そんな話をするのが楽しくて、店に行く度に
何時間も一緒に音楽を聴いては馬鹿話をした。
迷惑だったろうなあ。
滅多に買わないくせにいつも長居して。


その店でありとあらゆるギター、エレキも
アコギも弾かせてもらった。ベースも弾いたし
エフェクターもアンプもたくさん使わせて
もらった。
その音が僕の中にずっと残っている。
良い音、好きな音の基準を作ってくれた。


この店で初めて買ったギターが、ギブソン
J-50というアコギである。
68年製、僕と同い年だ。今でも弾いている。
買った時は確かもっと状態の良いJ-50が
店にあった筈だが、僕はこれを選んだ。
よく分かってなかった事もあるが、この音が
なんか好きだった。よく見たらジェイムス・
テイラーのJ-50と同じスペックだった。


弾いてみると、生音はそれほど大きくない。
でも、録音するととんでもなく良い音である。
後にもっと音が大きくて良い60年製のJ-45を
他の店で買ったのだが、そちらは手離して
しまった。後から非常に後悔した。
売るならJ-50だったかもな、思い入れが
強過ぎたなと。
でもJ.Jで過ごした楽しさが忘れられなかった
のである。


会社を辞めて写真をやるようになってから
J.J.からは足が遠のいてしまった。
その後店は閉めてしまったらしい。
風の噂だと、マスターは違う仕事に就いて、
一時体調を崩してしまったとか。
すごく繊細な人だったよな、と思った。
店に行った時、ひどく沈み込んでいた時も
あったからだ。
いま、どうしてるかな。元気でいて欲しいな。


この店を僕に教えてくれた友達は、いま
病と闘っている。二人でJ.J.に行った時は
本当に楽しかった。
彼も僕も、マスターさえも今はあの店から
遠く離れた場所に居る。
たかだか20数年前の出来事なのに。
時間って本当に容赦が無いんだな。