最初の危機

これは危機だ、と思った。
このままでは写真を続けられなくなる
かも知れない。


4月からの僕の生活は極めて単調な
繰り返しである。
月曜から金曜までは仕事。
朝6時39分発の電車に乗り、帰りは
盛岡発18時17分の電車で帰る。
毎日同じだ。
遅くなると家族に迷惑がかかるので、
仕事が終わったら出来るだけ早く帰る。


家に帰るとちょこちょこ仕事があって、
9時半過ぎくらいにやっと自分の
時間ができる。とは言え翌朝も5時半
起きなので12時には床に就く。


休みの日は殆ど家にいる。決まった
用事もあるが、それ以外の時間もずっと
待機している。毎日家の中で何かしら
あるので、外に出るのが難しいのだ。
そして夜9時か10時頃にようやく自分の
時間がやって来る。その繰り返しだ。


長年ひとりで好き勝手にやってきた
人間がその生活にすぐに馴染める訳は
無く、4月の時点でかなりイライラ
していたし、危機感を感じていた。


気持ちの切り替えだけなら簡単だ。
ちょっと息が詰まるなと思ったら
少しだけ時間をもらえば良い。
仕事が遅くなるからと家には電話して、
街中を1時間ばかりブラブラするとか、
休みの日にmujinaに行って数時間
のんびりすれば十分。
僕自身のストレスなんてその程度の事
だし、大変なのは僕より家族である。


問題は写真だ。
今の状況では丸一日写真に時間を費やす
事が出来ない。特に撮影ができない。
しかもこの状況がいつまで続くか分からない。
コロナに関係無くこの状況は続くから、
そのうちセレクトやプリントの時間も
無くなるかも知れない。


写真を始めて20年近くになるが、初めて
「写真を続けられなくなるかも知れない」
と思った。
岩手に帰る前からある程度は覚悟して
いたが、予想を遥かに越えていた。


考えていても何も変わらないし、時間は
過ぎていく。僕は段々イライラしてきた。
今自分が自由に使える時間って、夜寝る前と
仕事の行き帰りだけじゃないか。
家から駅までと、駅から大学までの計40分。
往復で80分。それしか無いのか俺の時間は!
写真を続ける余裕は無いのか!


物に当たった。そこら辺の物を蹴り上げて、
声をあげて、ふと気付いた。
………あれ?そんなに時間があるの?


そこで思いついた。毎日仕事の行き帰りに
写真を撮ろう。3ヶ月で個展1回分の写真を、
この行き帰りだけで撮ろう。
大したものは撮れないかも知れないけど、
とにかく毎日やろう。


5月の連休後から撮り始めた。撮れる日は
数百枚、撮れない日は1枚とか2枚だが、
ほぼ毎日続けた。すぐに飽きると思っていた
のだが意外と飽きなくて(と言うか歳のせいで
昨日撮ったものをすぐに忘れるので)、
毎日新鮮に撮影を続ける事ができた。


こうして、7月末までに個展1回分の写真を
撮り終える事ができたのである。
でもまだ完成ではなくて、来年4月一杯まで
続けるつもりだ。発表するかどうかは分から
ないけど、とにかく続けます。


この撮影を続ける中で、他にも撮りたい物が
たくさん見えてきたので、それらも撮って
行こうと思っている。1日撮影出来なくても、
短時間の撮影をたくさん重ねる事で何とか
やれそうだ。先の事はわからないけど。
とりあえず、最初の危機は乗り越えました。