宅録の話

実家で部屋の片付けをしてたら、懐かしい
物が出てきた。
1つはラジカセに付属していたマイク、
もう1つはスプライシング・テープだ。
中学の頃から宅録、部屋で音楽を録音して
デモテープを作る事、に夢中になっていた
のだが、これらはその頃に使っていた機材
である。


お金が無いので多重録音できるカセット
デッキ(MTR)が買えなかった。
なのでラジカセを2台使って作っていた。
最初にリズムを録って、その音を片方の
ラジカセで流した音を付属マイクで拾い、
それをもう1台のラジカセに繋いだ
キーボードの音に混ぜて録るのである。
それを繰り返す訳だが、あっという間に
音が悪くなってモコモコしてしまう。
4トラック目にはもう、何が何やら。
音がダンゴ状態になってしまうのだ。


楽器も、シンセは買えなかったので、
ヤマハのポータトーンという、当時
バカ売れしたポータサウンドの標準
鍵盤ヴァージョンを使っていた。
リズムマシンは当時、RolandのTR-
606というのが欲しかったのだが、
高くて買えなかった(45,000円は
当時の僕にとってはどうにもならない
金額でした)。


当時好きだった音楽はリズムとその
音色が特徴的だったので、キーボード
に内蔵されていたパターンをそのまま
使うという発想は全く無かった。
自分で考えたリズム・パターンで曲を
作りたかった。
なので、そこらにあるものをドラム・
スティックで叩いて録る事にしたので
ある。


片っ端から叩いて録音して聴いてみた。
叩く場所も色々変えてみた。
結果良かったのは、バスドラムが小さめ
のクッション、スネアは粉洗剤の箱か
紙袋。風呂の脱衣所で録ればタイトな音、
階段の踊り場で録ればアタックが強い、
当時流行っていたゲート・リバーヴ
みたいな音が得られた。


また、ドラム音を録る時は安いラジカセ
の内臓マイクを使うと良い感じで歪んで
ドラムらしくなる事も分かった。
後のローファイを先取りしてた訳ですな
(違うぞ)。


もう1つのスプライシング・テープという
のはテープ編集をする時に使うもので、
任意の場所でテープを切って不要箇所を
削除した後、テープを繋ぎ合わせるのに
使う。僕はこれでテープ・ループを
やろうと思ったのだ。


当時サンプラーというのが出始めていて、
自然音やレコードから取り出した音で
ビートを組むのがめちゃくちゃカッコ
良いと思った。なので欲しかったのだが
何百万円もした。買えるわけがない。
ならば手動でやるべと思い、録音した音を
テープ編集で繋げてエンドレスにして、
それをリズムに使おうと考えたのだ。


新しい考えではない。現代音楽ではテープ
ループは昔から使われていたから
やれると思ったのだが、失敗した。
リズムがよれていて、全く使い物に
ならなかった。オープン・リールなら
ともかく、カセットテープだと編集する
のが難しい。リズムの均等な音楽を
作るのは、かなり困難だった。


とにかく、中学から高校にかけて毎日
そんなことばかりしていたのである。
限られた機材の中でどうやったら面白い音
が作れるかを、ずっと考えていた。
これが本当に楽しかった。


就職してお金が入り、色んな機材を買った。
憧れてたものを片っ端から手に入れた。
MTRやらシンセやらサンプラーやらMac
やら。でも使いこなせなかった。


最初は良かったのである。
昔出来なかったあれもこれもできる!と。
調子に乗ってどんどん機材を増やして
いくうちに使いこなせなくなった。
そうなると創作意欲は減退して行く。
もったいない、と思ったがどうにもならな
かった。


後年写真家になり、暗室作業をやるように
なって、当時の事を思い出した。
暗室用品ってあれもこれも、様々売って
いるのだが、それをただ買い揃えてたら
宅録と同じ事になるな、と思ったのだ。


なので最低限必要なものだけ揃えて、
あとは自分で工夫して、自分の使い方に
合わせて作る事にした。
結果、すごく居心地の良い暗室が出来た。
モノクロの暗室は、いつも締切ギリギリで
スケジュールとしてはきつかったけれど、
作業自体は楽しかった。
その後のカラーでも同じだ。
作業環境はすごく良い。締切に追われつつ
も、作業場にいる時間は楽しい。


製作を進める上で、どういう場所を作るか。
何が必要で、何が不要か。
その判断をする上で、かつての宅録の経験が
結構役に立ったなと思う。やってみるもんだ。