見守ってください

数日前のこと。
朝7時過ぎに大学に着き、「さて何から
始めるべ」と思いながらふと窓の外を
見たら、何やら動くものが。
犬にしては大きいし、リードも付いてない。
でもすぐに分かった。カモシカだ。


断っておくがうちの大学は山の中に
ある訳ではない。一番近い山からでも
結構距離がある。そこからだって国道
4号線を横切らないと来れない訳で、
あんな交通量の多い所をどうやって
やってきたのだろう。
でも間違いなく、ニホンカモシカだ。


写真を撮ろうと思い、外に出る。
が、見当たらない。気のせいだったか?
と思っていたら、知らない女性に声を
かけられた。
「いなくなりましたねー」
「え?」
「写真撮りましたよー」


見せてもらった。間違いなくさっき見た
カモシカだ。
「たまに出るんですよねー」
いやいやいや、何をそんな呑気に。


知り合いの職員さんが通りかかったので
挨拶する。
「あの、さっき、ここで、カモシカが!」
職員さんはニコニコしながらこう言った。
「ああ、出たんですねー。あはははは」
てんで張り合いが無い。


誰かにぶつかったりしたらどうすんだ、
と少しイライラしながら建物に戻り、
ふと窓の外を見たらカモシカが歩いていた。
「いたあー!」


どどどど、どうしよう。とりあえず写真を、
とかやってるうちにカモシカは悠然と
去っていった。何とか後ろ姿を小さく撮れた
だけ。情けないわあ。


とりあえずどこかに連絡しようと考えた
ところで気が付いた。そういや昨日総務から
メールが来てたな。「農学部ニホンカモシカ
を見かけました」って。
早速そのメールを確認してみたら、盛岡市
広報の文章が引用されていた。


カモシカは人に危害を与える動物では
 ありません。帰巣本能があり、山に帰る
 道筋がわかれば帰っていきます。
 しばらく様子を見守ってください」


元気な場合は「見守ってください」、ケガを
してたら「歴史文化課に連絡してください」
なそうだ。
「見守ってください」ってなんかいいなあ。
普通にお隣さんとして暮らしている感じが
した。さっき会った人達はみんな、分かって
いたのだろう。だから慌てないのだ。
盛岡の人達っていいなあ、と思った。
当たり前なんだろうけど僕にとっては新鮮だ。


僕が住む紫波町でも、桜の名所となっている
公園に親子のクマが出て、2年連続で花見の
期間に立入禁止となった。
花見の方を止めるんだな、と笑ってしまった。
猟友会が出て捕獲、じゃないんだ。
花見期間に屋台などで稼ぐ人もいるだろうに。


誰もいない公園で、桜が満開の中、
クマの親子がてくてく歩く姿が頭に浮かんだ。
「食べ物が見つからないねー」
「疲れたねー。ちょっと休もうか」
「桜が満開で綺麗だねー」
「食べられないけどねー」


なんか楽しい気持ちになった。
うん、悪くない。