博打打ち

今月はまとめ仕事ばかりやっていた。
これまで作った化合物のデータまとめだ。
あと一つは他人の実験のカバー。
本来やろうとしていた仕事が他で既に
発表されていた為、そのトレースを
やってみたのである。


まあ、よく出来てましたわ。
反応は簡単、取り扱いも楽。
よく溶けるよく融ける。性能も出た。
そりゃ論文に採用されるわな。


で、昨日からは新しい基質の合成に入った。
今まで使っていた基質1号や2号とは
わずかに構造が違うだけなのだが、作るのは
ちと手間がかかる。反応が3段階なのだ。
1つ目を作り溜めして、それを使って2つ目、
そして3つ目で完成。長い。
量もたくさん作らなければならないから、
それぞれ2〜3回ずつ反応しなければならない。


何より大事なのはこれがあくまで基質、原料
だと言う事で、それを元に別の物を作って
からが研究の本番なのだ。先は余りにも遠い。
ざっと予定を組んでみたら、この基質3号が
完成するのは12月の第2週だった。


年内はほぼこれで終わりになるかも知れないが
仕方ない。今はこれしか無いからな、と思い
ながら始めたところで教授が来られた。
一瞬「もうやる事無くなったからクビねー」と
言われるかと思ったがさにあらず。
こないだ僕が提案していた別の基質4号の件、
使えそうなのでやってみましょうと言われた
のである。


当初は教授も「それは使えるかなあ?」と
難色を示していたのだが、どうやら同じような
基質で研究した論文が見つかったらしい。
で、こっちも試してみるかとなった訳だ。
また二番煎じにならなきゃいいけど、と
言いそうになったがグッとこらえて(ははは)、
今週作り始めた基質3号の他に4号、さらに
もう1つ見つけた5号を作る事にした。
これらは1段反応だし、そんなにたくさん
作らなくても良いので、割と楽だ。


「どれを優先しましょうか?」と尋ねたら
「日程を調整しながら全て進めてください」
との事。そうですよね。愚問でした。
まずは嬉しい話である。これから何をやったら
良いのかと途方に暮れていたのが、一気に
忙しくなった。来年1月くらいまでは
とりあえず仕事が確保できたのである。
ありがたや。


実はもう1つ、基質6号についても提案した
のだが、教授からは「それはさすがに」と
言われた。化学構造的に無理がある、と。
「そうですね」と引っ込めたが、いずれ
どこかでこっそりやるつもりである。


無理があるのは百も承知。駄目でもともと、
上手くいったら儲けもの。
「これは無理でしょ」という物が上手く
行ったら、こんな嬉しいことは無い。
大概は上手く行かないけど。バクチだ。
化学のこういう所がすごく楽しいのである。