おすそ分け

近所の方から時々おすそ分けを頂く。
野菜とか季節の果物とか。
どれもすごく美味しい。昨今は近所の
スーパーでも岩手産が少なくなって
きたのだが、それとは全然違う。
ありがたいなあ。


こないだは外出から帰ってきたら玄関先に
ポンとビニール袋が置いてあって、
開けてみたら松茸だった。しかも何本も。
びっくりしたのなんの。美味かった。


数日贅沢して、「ああ無くなっちゃった
ねえ。秋も終わりだなあ」なんて言って
たら、次は従兄弟から荷物が。
開けてみたらこないだより更に大量の
松茸が!嘘だろ!いいの、頂いて?


母がお礼の電話をした所、今年は松茸が
豊作なそうで、従兄弟曰く「食べ飽きた
から遠慮しないでもらって」だって。
あまりにも沢山採れるので、道端で配って
いる人も居るとか。ほんとか?


岩手で暮らしているとこういう事があって
すごく嬉しい。釜石に居た時は、近所の方が
新鮮な魚介類をしょっちゅう持ってきて
くれた。魚やらホタテやらめかぶ(!)やら。
これはもうとんでもなく美味しくて、その
当時も狂喜乱舞していたが、今思い返すと
「ありえない経験だったな」とつくづく思う。
何という贅沢をしていたのだ俺は。


そういう訳ですごく有難いのだが、反面
困る所もある。お返しがね。どうすれば
良いのやら。せっかく頂いたのだから
何か感謝の気持ちを示したいのだが、
お渡しできるものが無い。
田んぼも畑も船も無いし、仕事は化学屋
だからなあ。


「あの、これつまらない物ですが、僕が
研究室で作った『砂1号2号』です。
殆どの溶媒に溶けないんですよねー。
え、使い道?あの熱硬化性樹脂にしようと
思ってたんですけど、高温で何時間加熱
しても全く硬化しないんですよねー。
ちょっと色が付くだけで、ずーっと砂。
ただの砂。溶けないし融けない。
使えませんよねー」
……誰が喜ぶか、そんなもん。


この間まで、横浜から帰省する度に母から
「〇〇さんと〇〇さんに持って行くから
横浜のお菓子を買ってきて」と言われて
いた。その時は「んなこと言ったって
こっちも忙しいから買いに行く時間が
無えし、買う金だって無えよ」と思って
いたのだが、今はその理由がよく分かる。


という訳で、今日はお返しを買いに赤沢と
いう所の産直に行ってきた。
紫波町は葡萄が名産なのでそれを送ろうと
思ったのだ。今季3回目である。
もう葡萄の季節は終わりつつあるのだが、
それでも壮絶な争奪戦が繰り広げられていた。
贈答用に群がる人が多かったので、多分
同じような事を考えているんだろうな。


こういう事を書くと昨今は「だからそんな
風習は止めてしまった方が」とか言う人が
出てくるのだが、僕はそうは思わない。


お返ししなくても向こうは「何だよ」とは
決して思わないし、むしろ「気を遣わないで
くださいね」と言うに違いない。
でもこちらとしては、おすそ分けしてくれた
気持ちが有難いし、それにできる限りの感謝
を伝えたいと思うのだ。


そういう気持ちのやり取りが嬉しいから
「どうお返ししよう」と悩みつつも楽しんで
用意する訳で、早い話が好きでやってるのだ。
そういう豊かさの分からん奴が、ガタガタ
ぬかすな(誰も言ってませんよ)。


とにかくそう言う訳で、美味そうな葡萄を
選んで送ったのである。初めて見る品種も
あって、その名前が送り先の姪っ子の名前と
同じだったのでそれを選んだ。
喜んでもらえたら嬉しい。