幸せな茫然

朝5時、駅まで走る。本気でダッシュ
したのは随分久しぶり。息が切れる。


そこまでして早く出て、池袋に
着いたのはバスが出る1時間前。
なんでそう急ぐかねえ。昔からそうだ。


軽井沢に着き、バスを降りた瞬間に
「ああ、この匂いだ」と思った(僕は
土地を匂いで判別するところがある)。
ついに来た。
間に合わないと思ってた10時4分発の
列車に間に合ったので(また走った)、
予定より早く信濃追分に着いた。


駅を出て、追分宿まで歩く。
ここ数ヶ月、ずっと憧れ続けた木立の中
を、茫然と歩く。


僕はいつもこの場所について「茫然と
したい」だとか「途方に暮れたい」
などと書いている。それは文法上
おかしな表現なのだが、心情的には
その言葉が一番ピタリと当てはまる
のである。「幸せな茫然」なのだ。


茫然と、「ハアーッ」と溜め息をつき
ながら、でも顔は笑っている。
時々、声を出して笑った。傍目には
アブナイ人だけれど、極めて健全な精神
状態だ。
どんどん元気になっていくのが分かる。
あの木立の中に立てば、分かってもらえ
るのではないかと思う。


歩きながら写真も撮った。今回は最近
使っていなかったEOS kissデジタルで
撮影する事に決めていた。木立と別荘を
撮る。多分使わないだろうけど、だから
こそ楽しい撮影だった。この楽しさは
忘れてたな。


追分宿に着いて、まずは堀辰雄文学
記念館へ。これが観たかった。今回の
企画展も良かった。そして常設展の、
義父に宛てたはがきを見て笑う。
お金の無心をしてるのだが、いつ見ても
痛快で可愛らしい。


それから蕎麦屋へ。
ここ3回続けて臨時休業だったのだが、
4度目の正直、今日は開いていた。
迷わず鴨つけそばを頼む……美味いっ!
店を出た後しばし茫然(またか)。
隣の人が食べてた「そば定食」もかなり
美味そうだったが。次はあれだな。


店を出たら向かいの古本屋が開店してた
ので、ゆっくり見る。普段の撮影だと
落ち着いて見る事が出来ないのだが、
今回は休養なので。文庫本2冊購入。


という訳で、到着3時間でやりたかった
事を全てやり終えてしまった。
これから何しよう?と思いながらまた
タニタした。まだ3時間しか経って
ないんだな。嬉しいなあ。